セミナー立ち上げの背景
脳塞栓症に対し第一選択となる急性期のt-PA治療を補完する血栓回収療法(以下本法)は閉塞血管の再開通率の向上とそれに伴う身体的後遺症の低減に大きく寄与することは、世界的にコンセンサスが得られております。しかしながら本法の実施医は脳血管内治療専門医及びそれに準ずる技術的レベルを持っていることが条件とされ、実際に担当できる医師が大きく不足しているのが現状であります。特に郊外や医療過疎地においては、医師不足や、住民の意識レベルの問題もあって、十分な治療が享受されていませんでした。これを解決し、どこでも同じレベルの治療が行えるようなシステムを構築する必要があり、そのために医療圏の治療対象人口に応じた、本法実施医師の適正な配置による県内の標準化をはかる必要があります。この喫緊の課題に対し大学、行政が協力して取り組むことで、現場のニーズに答えるとともに、脳卒中救急レベルを向上させ、ひいては、脳卒中による後遺症の減少、それに付随する介護負担の軽減につなげることを目標として掲げました。
立ち上げまでの取り組み
愛知県では「神戸宣言」後に血栓回収療法(以下本法)の重要性を強く認識し、RESCUE JAPAN PROJECTに沿ったアクションプランを実行して参りました。「脳塞栓に対する血栓回収療法普及のためのプロジェクト『愛知モデル』」と銘打ち、愛知医科大学を事務局として、調査、啓発、実践の順序で取り組んできました。このプロジェクトは、愛知県における脳卒中(脳塞栓)に対する血管内血栓回収療法の普及と急性期脳卒中の転帰の改善をめざす県内4大学(藤田医科大学、名古屋市立大学、名古屋大学、愛知医科大学)による共同の取り組みで、脳卒中協会の協力と愛知県からの後援を得て実現したものです。
実施プランとしてまず、愛知県の事態を調査し、本法実施の現状について把握するためアンケートを昨年施行しました。脳神経外科、神経内科医が常駐している県内140施設に、t-PAの施行、および血栓回収療法の実績の他、設備、スタッフなどを含む急性期脳卒中治療体制や環境、本法実施における問題点、習得希望などについても質問し、愛知県の人口統計をもとに、本法を受けた患者の割合について解析しました。 結果として、115施設より回答が得られました(回収率82%)。本法は31施設で432例に行われ、t-PAは43施設で489例行われたが、その9割は本法実施施設でした。 本法を実施できる病院(TCSC:thrombectomy-capable stroke center)においては、全施設において24時間365日緊急CT, MRI、血管撮影が可能で、コメディカルスタッフの治療介助も可能な体制ができていましたが、現場における問題点として、スタッフ不足が一番にあげられ、次に院内での対応時間の遅れ(時短問題)が指摘されました。また医療圏別の実施数を調査しサブ解析すると、人口比別の実施割合では12の医療圏のうち都市部においては高い実施率であるのに比べ、郊外や医療過疎地では、都市部の1割未満であり、医療圏ごとの格差が浮き彫りとなりました。一方本法の習得希望は脳神経外科・脳血管内治療センターのみならず神経内科や救急医からも多く要請があることもわかりました。 この結果より、実施医の養成は急務と考え本セミナーの発足に至りました。
第1回セミナーの開催
上記の趣旨に沿って、県内4大学の脳血管内治療の責任者の合意のもと、脳卒中協会愛知県支部が主催となって、県防災局からもご理解をいただきました。
2018年6月17日に愛知県内の本法習得希望者を対象に、名古屋駅前の会場で1日かけて講習とハンズオンを行いました。この取り組みは愛知県、防災局からもご後援をいただきました。プログラムとしては、虚血の基礎知識の習得のため、イメージング、解剖、鑑別診断などの講義の後、実際の治療技術の講義として、穿刺、止血、ガイディング、セットアップ、デバイスの種類、血栓回収のテクニック、周術期管理、トラブルシューティング、時短の取り組みの他、後方循環例や tandem lesion など特殊例への対処法などについてレッスンしました。またハンズオンとして、シミュレーターモデル、血管モデルを用いた全デバイスの取り扱い方を、ローテーション形式で体験しました。出席者はハンズオントレーニング受講者40名を含む総数140名でした。この時用いたテキストは、「血栓回収療法 基礎から実技まで」というタイトルで参加者用に印刷されましたが、好評であったこともあり、書店販売も行い、各地で学習、教育のために使用されました。
これまでの歩み
第2回は、2019年4月6日に東海3県(愛知、岐阜、三重)の本法経験者を対象に困難例、教育的症例についてのケースカンファレンスを行いました。抄録集は症例のまとめとともに、キーフィルムをつけてもらい、discussionがしやすいようにまとめました。参加者80名で、13題の演題が発表され、テーマ別セッションにて有意義な討論が行えました。
第2回愛知県血栓回収療法教育セミナープログラム(PDF)
第3回は同年8月3日に日本脳血管内治療学会中部地方会(CSNET)の前の午前中にCSNETと同じ会場で、第2回と同様、困難症例や教育的症例から治療戦略や管理を学ぶスタイルで開催されました。79名の参加者のもと、12演題について熱心な議論が行われました。脳卒中・循環器対策基本法が成立し、現在脳卒中学会を中心にstroke centerの整備が始まったところで注目度が高まって入るものの、治療手技の第一選択や組み合わせ方、適応決定、無効時の次の方針、やめ際なども含めて、コンセンサスは得られていない項目が多く、活発なdiscussionが行われました。
第3回愛知県血栓回収療法教育セミナープログラム(PDF)
第4回は、2020年4月4日に予定されていましたが、コロナ禍で中止となり、2020年9月19日に第98回日本脳神経外科学会中部支部学術集会終了後、全面WEB形式で開催されました。従来と違い、マイクのところに列がでるような熱い討論はさすがにできないだろうと思っていましたが、実際は色々言いたい人がいっぱいいて、意外に各演題盛り上がり、時間も延長するほどでした。
第4回愛知県血栓回収療法教育セミナープログラム(PDF)
第5回は愛知ハンズオンワークショップと併催で、やはりZOOM Webinar形式で2021年7月17日に開催されました。前回と同様で皆さん慣れてきて、途中からどんどん質疑応答が入り、いつも通りの河童卯後藤先生な議論がされました。すでにやり方は定着してきたとはいうもののまだ、未解決の部分も多くあることを痛感させられるような症例が多く発表されていました。
第5回愛知県血栓回収療法教育セミナープログラム(PDF)
第6回は本年(2022年3月26日)にCSNETの午前にやはりZOOM Webinar形式で行います、詳細につきましては、下記ホームページにご案内してまいります。皆様の積極的なご参加をお待ちしております。