セミナー立ち上げの背景
脳塞栓症に対し第一選択となる急性期のt-PA治療を補完する血栓回収療法(以下本法)は閉塞血管の再開通率の向上とそれに伴う身体的後遺症の低減に大きく寄与することは、世界的にコンセンサスが得られております。しかしながら本法の実施医は脳血管内治療専門医及びそれに準ずる技術的レベルを持っていることが条件とされ、実際に担当できる医師が大きく不足しているのが現状であります。特に郊外や医療過疎地においては、医師不足や、住民の意識レベルの問題もあって、十分な治療が享受されていませんでした。これを解決し、どこでも同じレベルの治療が行えるようなシステムを構築する必要があり、そのために医療圏の治療対象人口に応じた、本法実施医師の適正な配置による県内の標準化をはかる必要があります。この喫緊の課題に対し大学、行政が協力して取り組むことで、現場のニーズに答えるとともに、脳卒中救急レベルを向上させ、ひいては、脳卒中による後遺症の減少、それに付随する介護負担の軽減につなげることを目標として掲げ、2019年(平成31年)から2023年(令和5年)まで計8回開催しました。
立ち上げまでの取り組み
愛知県では「神戸宣言」後に血栓回収療法(以下本法)の重要性を強く認識し、RESCUE JAPAN PROJECTに沿ったアクションプランを実行して参りました。「脳塞栓に対する血栓回収療法普及のためのプロジェクト『愛知モデル』」と銘打ち、愛知医科大学を事務局として、調査、啓発、実践の順序で取り組んできました。このプロジェクトは、愛知県における脳卒中(脳塞栓)に対する血管内血栓回収療法の普及と急性期脳卒中の転帰の改善をめざす県内4大学(藤田医科大学、名古屋市立大学、名古屋大学、愛知医科大学)による共同の取り組みで、脳卒中協会の協力と愛知県からの後援を得て実現したものです。
実施プランとしてまず、愛知県の事態を調査し、本法実施の現状について把握するためアンケートを昨年施行しました。脳神経外科、神経内科医が常駐している県内140施設に、t-PAの施行、および血栓回収療法の実績の他、設備、スタッフなどを含む急性期脳卒中治療体制や環境、本法実施における問題点、習得希望などについても質問し、愛知県の人口統計をもとに、本法を受けた患者の割合について解析しました。 結果として、115施設より回答が得られました(回収率82%)。本法は31施設で432例に行われ、t-PAは43施設で489例行われたが、その9割は本法実施施設でした。 本法を実施できる病院(TCSC:thrombectomy-capable stroke center)においては、全施設において24時間365日緊急CT, MRI、血管撮影が可能で、コメディカルスタッフの治療介助も可能な体制ができていましたが、現場における問題点として、スタッフ不足が一番にあげられ、次に院内での対応時間の遅れ(時短問題)が指摘されました。また医療圏別の実施数を調査しサブ解析すると、人口比別の実施割合では12の医療圏のうち都市部においては高い実施率であるのに比べ、郊外や医療過疎地では、都市部の1割未満であり、医療圏ごとの格差が浮き彫りとなりました。一方本法の習得希望は脳神経外科・脳血管内治療センターのみならず神経内科や救急医からも多く要請があることもわかりました。 この結果より、実施医の養成は急務と考え本セミナーの発足に至りました。
第1回セミナーの開催
上記の趣旨に沿って、県内4大学の脳血管内治療の責任者の合意のもと、脳卒中協会愛知県支部が主催となって、県防災局からもご理解をいただきました。
2018年6月17日に愛知県内の本法習得希望者を対象に、名古屋駅前の会場で1日かけて講習とハンズオンを行いました。この取り組みは愛知県、防災局からもご後援をいただきました。プログラムとしては、虚血の基礎知識の習得のため、イメージング、解剖、鑑別診断などの講義の後、実際の治療技術の講義として、穿刺、止血、ガイディング、セットアップ、デバイスの種類、血栓回収のテクニック、周術期管理、トラブルシューティング、時短の取り組みの他、後方循環例や tandem lesion など特殊例への対処法などについてレッスンしました。またハンズオンとして、シミュレーターモデル、血管モデルを用いた全デバイスの取り扱い方を、ローテーション形式で体験しました。出席者はハンズオントレーニング受講者40名を含む総数140名でした。この時用いたテキストは、「血栓回収療法 基礎から実技まで」というタイトルで参加者用に印刷されましたが、好評であったこともあり、書店販売も行い、各地で学習、教育のために使用されました。

開会挨拶

ハンズオン(シミュレーター)

ハンズオン(デバイス)

メディカルブックサービスにて販売

講義(1)

講義(2)

スタッフ集合写真
第2回から第8回の開催
第2回以降は主として困難または教育的なケースを発表してもらい、皆で討論する中で最良の治療や判断について検討するケースカンファレンスの形式で行いました。当初愛知県内の施設のみにご案内をして開催しておりましたが、東海地区からの参加希望が多く、第6回以降は「県」を取り、愛知で開催するセミナーという形で広く参加者を募り開催してまいりました。コロナ禍の中ではWEBオンライン形式もとり入れながら第8回まで開催してきましたが、方法論がある程度確立し、トラブルシューティングなども周知されてきたため、第8回をもって終了いたしました。皆様の温かいご支援とご協力に心より感謝申し上げます。
第2回:平成31年(2019年) 4月6日開催
第3回:令和元年(2019年)8月3日開催
第4回:令和2年(2020年) 9月18日開催
第5回:令和3年(2021年)7月17日開催
第6回:令和4年(2022年)3月26日開催
第7回:令和4年(2022年)8月6日開催
第8回:令和5年(2023年)8月6日開催