脊椎変性後側弯症
疾患概念
側弯症(そくわんしょう)とは脊柱(背骨)がねじれを伴って左右に曲がりくねった状態をいいます。子供時代には側弯症がなかったのに、中高年で急速に脊柱が曲がってくるタイプ、いわゆる加齢が原因の側弯症を変性側弯といいます。足を組むことが多かったり、猫背であったりの普段の何気ない姿勢が引き起こしてしまうことも多くあります。また、骨折などで左右の脚の長さが違う場合や、股関節の病気をするなどして骨盤が傾むくことにより、バランスを保とうとして側弯症になることもあります。腰椎椎間板ヘルニアにおいては、痛みを避けるために体を傾けてしまうことが多く(疼痛性側彎)、この影響から脊椎が変形して側弯症を併発することもあります。年月をかけて脊柱には負担がかかっていきますので、バランスを悪くした脊柱は加齢によりさらに曲がりやずれが悪化していきます。脊柱が前に倒れてしまった状態を後弯といいますが、後弯と側弯を同時に伴っているものが後側弯症で、高齢の方に多く、骨粗しょう症をしばしば合併しているため、治療に難渋することもしばしばです。
それに対し、主に女子に発症し、成長が止まるまで背骨の曲りが進行する原因不明の特発性(とくはつせい)側弯症もあります。(この疾患に関しては特発性側弯を専門に扱っている病院へ紹介します。)
症状
腰背部痛、臀部痛、下肢痛がよくみられる症状です。
脊柱管が狭窄している場合、腰部脊柱管狭窄症の症状も出現します。
- 間欠性跛行
- 歩行しているうちに徐々に両下肢がだるくなったり、しびれたり、力が入らなくなって歩けなくなる状態です。屈んでしばらく休むとまた歩けるようになります。後側弯症では、歩いているうちに腰背部痛が強くなってしまい、休憩が必要なこともあります。
- 神経根症状
- 神経根が圧迫されて生じる症状。いわゆる坐骨神経痛で、臀部、大腿、下腿の外側や背側の痛みやしびれ、足背部、足底部に至る痛みなどです。足関節背屈障害なども生じます。
腰部脊柱管狭窄症を伴わない場合には腰背部痛や臀部痛が主症状となります。この場合、立っていることが困難となり、横になって休まなければならないことがあります。また、立ち仕事の際もどこかに肘をつかないとやっていけないなどの症状もみられます。
診断
腰椎MRI、単純レントゲン写真(全身の立位レントゲンの正面と側面を撮り、全脊柱のバランスを見ます。)、CTなどを用いて診断します。
実際の症例
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5
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7
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著明な側弯症と後彎変形を認め、体が前に倒れています。(7番、8番)
MRIでは第3/4,4/5腰椎部で脊柱管狭窄を認め(1番から4番)、脳脊髄腋の流れが途絶えています。(5番)
治療
鎮痛剤、コルセット着用、マッサージ、電気療法などの保存的治療で症状が改善しない場合には手術治療が必要となります。下肢のしびれ、痛み、脱力などの神経症状があれば手術になりますが、後側弯症では、神経症状がなくても腰痛が強くて日常生活が成り立たない場合も手術を考慮します。
手術治療
後側弯症の手術は、体幹の支持機能が損なわれ、腰背筋の疲れがたまって直立姿勢でいられなくなることもあり、可能な限り全身バランスが良い位置になるように矯正する必要があります。神経症状があれば、同時に神経の圧迫を解除しますが、脊柱の固定術を行わなければなりません。少しでも出血量を減らしたり、組織のダメージを減らすため、わき腹からの前側方固定としてケージ(チタンや合成樹脂を用います。)を椎間板腔に挿入し、後方からスクリューを打ち込み、スクリュー間をロッド(棒)で連結して矯正をかけて固定します。(腰椎前方後方同時固定術)
現時点では、可能な限り短い範囲の矯正固定で、体幹バランスをよい位置に持っていけるように計画して手術を行っております。かつては、長い範囲で矯正固定をかけていました。しかし、胸椎の中間あたりから仙骨まで固定をしてしまうと、手術後に旅行に行くまでに元気を取り戻してくれる患者さんが少ないため、現在は下位胸椎から下を固定するにとどめるようにしています。
次に示す写真は、手術中の写真です。
愛知医科大学では、O-arm IIという術中CT装置が2019年に導入されました。O-arm IIはナビゲーションシステムと連動しますので、術中の姿勢を反映したリアルタイムナビゲーションが可能になっているのが最大の利点です。さらに精度を上げる研究を進めており、低侵襲で確実・安全な手術を進めてまいります。
その他の症例の手術前と手術後の写真を以下に示します。
手術前は、歩行する際前に体が倒れてしまい、連続して20mも歩けない状態でしたが、今は散歩を楽しんでおられます。